京都の通り名はそれ自体から、通り名の由来を探ることが可能なものが多いが、いきなり正面通と言われて、まず思うのが、「何の正面なのか」ということだろう。

もともとこれは、豊臣秀吉が、一五八六年に完成した方広寺大仏殿の正面に続くことに由来している。この大仏殿は前面八十二メートル、側面五十二メートル、高さ五十メートルという、巨大なもので、奈良のそれを遥かに上回るものであった。 中に鎮座していた大仏も、漆を塗った上に金箔を置き、彩色された高さ十九メートルの豪華なもので、当時の秀吉の権勢が目に浮かぶ。しかしこの大仏殿は天災による倒壊を繰り返し、昭和四十八年の火災以降は、本堂・大黒天堂・大鐘楼を残すのみである。

この大鐘にある「国家安康・君臣豊楽」の文を徳川家への呪いの文章であると曲解してとられ、豊臣氏討伐の口実にされてしまったのは有名な話。また、内部にある白い雲のようなシミが人が立っているように見えることから、怨みのとれない淀殿が幽霊になって残ったという恐ろしい話も伝わっている。こちらも高さ四・二メートル、重さ八十三トンの巨大なものである

正面通は、東端である豊国神社前の百メートルほど以外は、最後まで狭い通りが続く。京都の他の通と同様に、この通も途中で、渉成園、東本願寺、西本願寺に行き当たり、三区間に分断されている。賑やかなのは、豊国神社前の商店街と、西本願寺東側の仏具屋が並ぶ通ぐらいで、この区間以外は公園などが並び、静かなたたずまいを見せる。 東西両本願寺を訪れた方はこの通りを歩いて、渉成園、豊国神社、方広寺、三十三間堂などへ足を伸ばしてみるのもお薦めである。