市内から鴨川を遡ること約1時間、大杉に囲まれた貴船神社奥宮に到着する。門前の手水を口に含めば、山の気に全身が清められるような思いがする 小ぶりな本殿の下は、龍が棲むという底の知れない深い穴だという。また、玉依姫が乗ってこられた黄船を積み石で覆った船形石を巡れば、ここが本来の貴船神社であり、鴨川の始まりの地であったと納得できる 賑わう料理旅館街の中ほどに、11世紀半ばに移された本宮がある。本殿前の崖から湧き出る水は、常温で置いても3年は腐らないとか

次は、賀茂川を下り神山の麓を過ぎ、都の入り口にあたる上賀茂神社に向かう。神代から多くの伝説に彩られ、伊勢神宮に次ぐ格式を誇る古社である。二の鳥居を一歩くぐれば、白い砂が敷き詰められた境内には立砂があり、古雅な趣の建物が散在し、清らかな雰囲気を醸している 賀茂川から引き入れた御手洗川（みたらしがわ）と、境内の山の方から流れてくる御物忌川（おものいがわ）が社前で合流し、「ならの小川」となって境内を過ぎてゆくのも独特の風趣を醸し出している

ならの小川が境内を出て明神川に名を変える。流れに沿って社家屋敷が並ぶ通りを東に向かえば、間もなく深泥池（みどろがいけ）に着く。およそ14万年前から氷河時代を生き残ってきた天然記念物の池である 流れ込む川は無く、雨と湧水だけで今も満々と水をたたえている。昔、鬼が貴船の奥から地下道を通ってこの池の傍らに現れ、さまざまな悪行を働いたという

そろそろ市内に戻り、遅めの昼食は、「桃の井」という名水が今も涌くキンシ正宗堀野記念館ではどうだろうか。老舗酒蔵発祥の地で、酒は伏見の工場へ移したが」現在は地ビールが生産されている。室町の仕出し弁当に利き酒や造りたてのビールも味わえる 下戸の方は桃の井の名水をどうぞ。食事の後は、市内の名水を訪ねてみよう

京都御苑の東側、梨木神社には名高い「染の井」が健在である。比叡山から大文字山の水が、地下深く鴨川をくぐって南西へ流れている。その流路の上に御所や二条城、桃の井や染の井もある

都にはもう一つの地下水系がある。保津川を発端とする流れは北山の水を合わせながら、東にふくらみ、おおよそ西大路五条以南で比叡山からの水系と合流するという。その合流点に位置する若一（にゃくいち）神社は、古くは浅水の森といわれた所であって、神供水と呼ばれる名水が復活されている 開運出世のご利益有りというから、その神供水をいただいて、めでたく本日の旅を終えよう

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