月刊 京の舞妓さん 2月号 【2】/2013年 - 舞妓倶楽部
一見すると、そこは紛れもなくお茶屋さんであった。祇園のメイン通り、花見小路の一角に佇む二階建ての町家。店先には花街・祗園甲部のシンボル、八つの「つなぎ団子」の紋章の入ったちょうちんが掲げられていて、他のお茶屋さんと同じように、格子戸の上...
Update Date : 2017-09-14 15:49:52
Author : ✎ maikoclub
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花見小路の隠れ家『津田楼』へようこそ
一見すると、そこは紛れもなくお茶屋さんであった。祇園のメイン通り、花見小路の一角に佇む二階建ての町家。店先には花街・祗園甲部のシンボル、八つの「つなぎ団子」の紋章の入ったちょうちんが掲げられていて、他のお茶屋さんと同じように、格子戸の上には、『津田楼』と屋号の刻まれた表札があった。 しかしよくみると、何かが違う。普通、お茶屋さんの“玄関”は人の出入りがある時にしか、開け閉めされないはずなのに、ここの格子戸は、清々しいまでに開け放たれている。とはいえ、最も冷え込む2月のあいだだけは、ピシッと閉められてはいるのだけれど。 しかも、紅殻格子の窓からは、全貌とはいかずとも、昼夜、明かりがついているため、中の様子がうっすらとうかがえる。立ち止まり覗くこと、のべ十数回。“浮世絵らしきもの”や、“日本女性の写真らしきもの”、他にもバッグなどの“和小物らしきもの”が視界に飛び込んできた。 どことなくギャラリー風である。でも、まさか。「お茶屋さんがギャラリーを開くはずなどないだろう。じゃあ、いったい、ここは何屋なのだ!?」。好奇心は募るばかり、でも、入りかけては毎度、足を止めていた。この不思議な雰囲気を醸し出す「お茶屋さんのようでお茶屋さんではない」であろう空間に、ひとり、足を踏み入れる勇気がなかったのだ。 陽も沈み、空は深い群青色に染まる。ただでさえ冷たい冬風が身を切るように吹きつける。その日も私は、少しだけ中の様子をちらと覗いてから素通りするつもりだった。「一刻も早く宿に戻って、ほっこりしたい」。頭ではそう思っていたのに、どうしたことか。何かに目に見えないものに、背中を押されたとしかいいようがない。 ためらうことなく、さささっと中へと入り、そこで顔を合わせたお店の方に、そそくさと話しかけたのである。思い返すと、この時の私は、半ば、ゆるやかな「質問攻め」に近かったのではないかと反省するが、どうしても「正体」が知りたかったのだ。そして、今回、幸いにも、取材を快諾していただいた。いまだかつてない文化的空間、『津田楼』の魅力をお届けしたい。
抜かりない美の集結した、くつろげる『贅沢空間』
『津田楼』は、やはり、かつて由緒あるお茶屋さんだった。幕末には四条川端で、大正初期には現在の花見小路に移転したという。そして、3年前に改装し、今までとは違う『津田楼』が生まれた。現在は、「五感で感じる文化」をコンセプトに、レストラン・バー、文化サロン、古美術ショップを兼ねた「大人の遊び場」として営まれている。 町家らしい奥行きの深い造りではあるが、伝統的な外観からはちょっと想像できない、嗜好の凝らされたこのユニークな贅沢空間、ひとつずつ目で味わいながら、ご覧いただければと思う。 まずは、レストラン・バー。襖を開けると、ダダーン。目に飛び込んでくるのは、欅(けやき)の一枚板を使用したカウンターである。8メートルは優にある長い、長いテーブルだ。半分は、畳ばりの掘りごたつ調になっていて、座椅子に座ってゆったりできる。もう半分のスペースは、床上のテーブル様式だ。 「どうりで座り心地が良いな」と思ったら、チェアは、すべてウェグナーだった。20世紀、北欧デザイン界にセンセーションを巻き起こしたデンマークの巨匠による絶品である。 シンプルながら、その洗練されたデザインで圧倒的な存在感を放っていたのは、照明だ。建築物の模型を緻密に組み合わせたようなそれも、東京の指物師(さしものし)が生み出したというこだわりの逸品。他にも、「蔵」を改装してつくったウォークインのワインセラーなど、抜かりない美が集結した空間である。
坪庭から見たレストラン・バー。自然光がなんとも心地よい
OpenMatome
月二回ほど変わるという掛け軸。こちらは明治から昭和前期にかけて活躍した浮世絵師・北野恒富さんの作品
OpenMatome
ここでは、「食べる」、「呑む」、「寛ぐ(くつろぐ)」を同時に楽しむことができる。 ランチタイムは、旬の食材を使った「いろどり膳」や予約のみ受け付けの「色彩弁当」、ディナータイムは、ミニ会席からコース仕立てまで選べる「季節のおまかせ」ほか、バーのみを利用したい人にも嬉しいアラカルトが用意されている。これらはすべて、季節によってメニュー構成が変わる。たとえば、今なら、「いろどり膳」は湯葉の京豆腐の小鍋に、湯葉のミルフィーユ、金時あん、生姜の小鉢や、しらうお、筍の揚げ物、アラカルトには、しし肉柚子胡椒焼き、湯葉豆腐あんかけなど。ああ、文字を見ているだけでも、お腹が鳴ってしまうのは私だけだろうか。 その時期に一番「美味」とされる新鮮な食材を仕入れて、お客さんのさまざまな注文に応じて料理を作るという、最高級のおもてなしがここでも堪能できる。100種類以上のワイン、津田楼オリジナルラベルの日本酒や焼酎など、バラエティ豊かな飲み物も勢揃いだ。
「つ」の文字がインパクト大の津田楼オリジナルの和菓子。人をわくわくさせたり、しあわせにする「今」の和菓子を作る『UCHU wagashi』さんとデザインから一緒に考案されたのだそうだ それだけではない。ディナータイムには、毎夜のごとく、三味線の生演奏がバックミュージックとして披露されるのだ。今回、取材に応じてくださった津田楼の魚次明紀子さんに尋ねてみると、「曲目は、その日、その日に、おいでになるお客さんや場の雰囲気に合わせているんです」。食事しかり、オーダーメイド的なスタイルが取られているようだ。しかも、お茶屋の雰囲気をそのまま残しつつ、東洋も西洋も融合させた、独特のモダンな空気が漂うこの豪華な空間で、だ。 きっと、ここまでご覧になって、あなたもこう思っているのではないだろうか。「素敵だけれど、お値段はいかほどに…?」。聞くと、予想をはるかに超えてリーズナブルであった。ランチタイムは1,900円から、ディナータイムは5,500円から。「から」というのは、食材の仕入れによって、内容が変わるからで、だからといって、ゼロがふたつ、みっつ増えるということはない。 ただ、「季節のおまかせ」には、8,400円、10,500円の合わせて3つのランクがあり、さらに特別な希望があれば、それ以上の注文をお願いすることも可能だ。しかし、これなら、出せる額ではないだろうか?むしろ、「よーし、今月は仕事をよく頑張った!」と、ちょっと自分にご褒美をあげたい時などにぴったりである。魚次さんによると、シーズン中は、ご贔屓のお客さんだけでなく、外国の観光客の方たちも多く訪れるという。
『文化サロン』で、触れたことのない日本文化に触れる
お次は、文化サロン。二階にあるふたつのお座敷を含め、津田楼内の空間ではさまざまなイベントや教室が行われている。その代表的なひとつに「美術品を愛でる会」がある。実は、こちらのオーナー、村田理如(むらたまさゆき)さんは、清水寺の近くにある「清水三年坂美術館」の館長でもある。 村田さん曰く、「私の美術館では、日本の工芸が最も輝いていた幕末・明治期の作品を収集展示している。蒔絵、金工、彫刻、七宝などがその中心で、作られたからすでに100~200年たっているにもかかわらず、その作品の美しさは今も人々の心を引き付けて止まない。それは日本人の間での評価にとどまらず、それらが作られた当時から欧米人の間で高い評価を得、それは現在にいたってなお一層高いものとなっている」。(京都新聞文化会議「ソフィア」316より) この美術館は、上に挙げた工芸品のほか、京薩摩を常設展示する日本で初めての美術館として、今から10年ほど前に設立された。そのコレクションは世界的な評価を受けている。ここに展示される稀少な所蔵品をはじめ、『津田楼』の文化サロンでは、村田さんの収集する名品を、間近に観賞できる会が開かれているのだ。
「イベントにいらっしゃる方は、本当にコアなファンの方が多いですね」と魚次さん。毎回、テーマを決めて行われるそうだが、最近では、本物かと思うほど精緻な技術によってつくられた「木彫・牙彫」やアール・ヌーヴォーにも影響を与えたという「金工」の美術工芸品の鑑賞会が行われた。ちなみに、上の「貝」は、象牙だというから驚きだ。 先の村田さんの言葉にあるように、日本の工芸職人たちの技術レベルは幕末から明治時代にかけて、絶頂期にあった。それが現在に至り衰退してしまったのは、その時代を生きた日本人の生活様式が急激に変化を遂げ、美術品における嗜好が西洋化していったことなど、さまざまな理由があるそうだが、とにかく、海外での評価が高いゆえ、これら貴重な「日本の財産」ともいえる芸術品の流出が続いているのが現状であるという。 「作品を紹介することで、日本での評価が高まり、歴史上、“頂点”とされた幕末、明治を超える工芸作家が現れることを願う」ゆえ、『日本人が、新たに日本文化を発見する場』をこうして設けられたのだそうだ。まさにそうなのである。「外=外国」ばかりに目を向けずに、「内=日本」にしっかりと目を向け、先人たちの築いてきた文化をリスペクトし、「日本らしさ」を大きく育てていくことこそ、先の見えない時代を生き抜くひとつの「不可欠」な要素だと思えてならない。 たとえ表面的には変わり様ないようにみえても、こういう活動を進んで行う「人」の存在は、また新たに「人」から「人」へと「良きこと」を伝播し、あらゆる意味で、霞んでいくようにしかみえない今の日本を静かに支えてくれているのだと思う。なんと、ありがたいことだろうか。 「遊ぶ」、「学ぶ」、「出会う」をテーマとした文化サロンも、花街ならでは。なんと、舞妓さんとランチを楽しめる『舞妓さんと楽しむ午餐会』や『舞妓さんの写生会』も行われていて、他『バカラで日本酒を飲む会』などもあり、イベントは目白押しである。 「最近、新たに企画したのは『舞妓さんの撮影会』なんです。坪庭、床の間…昔ながらのお座敷や玄関の上がり口…どこで撮っても絵になると思いますし、定員15名の少人数で行いますので、他にはない、いいお写真が撮れるかと…」。魚次さんによると、たとえば舞妓さんが縁側に座りポーズを取られたとして、参加者の方が囲むようになるのではなく、ひとりずつの“持ち場”=「時間」を決めて、ゆったりと撮影できるよう、工夫したイベントなのだそうだ。ただし、庭のような狭いスペースでは、数人で囲むこともある。撮影時には、彩りを添えてくれる和小物も用意されている。ちなみに、次回の開催は3月20日だ。
天下一品の古美術ショップで「見つける」「愛でる」「感じる」
さいごに、今回晴れて(?)『津田楼』の「正体」を知るきっかけとなった古美術ショップをご紹介したい。お茶屋さん時代、かつて「待合い」スペースだったこの空間は、花見小路に面している。すぐそこ、斜め前には、「都をどり」や「温習会」の芸舞妓さんたちによる技芸の発表会が行われる祇園甲部歌舞練場がみえる。長いあいだ、この街の歩みと共に、進化を遂げたこのショップは、「作り手」と「観賞する者」の両者があってこそ、文化は息づく。そのことを熟知したオーナーの村田さんによって厳選された品々で豊かに埋め尽くされている。一点ものの簪、蒔絵…、まさに美術館のようである。
ここにあるのは、古美術品だけではない。100年前の京都の情景、そこに暮らす人々を撮り下ろした写真をポストカードにしたもの。土からブレンドし、無から有をつくるアーティスト、武田浪(ろう)氏の陶芸作品まで。有名無名、今昔にかかわらず、広く現代美術まで、「美しいもの」の選りすぐりが、陳列されている。 中でも、今、定番かつ人気を博しているのは、「伊勢型紙」を簡単にランタンにできるキットなのだそう。伊勢型紙とは、さまざまな柄や模様を、主に着物の生地に染色するためにつくる型紙のこと。図柄の緻密さ、芸術性が評価され、工芸技術として重要無形文化財にも指定されている。この“和風照明”、サイズの大小にもよるけれど、お手頃なもので、1万円でお釣りが来るという。
「覗き見していた頃はね…」なんていうと、妙にいかがわしく聞こえるかもしれないが、幾度となく外から私が覗き見ていたのは、やはり浮世絵だった。ショップの入り口には国周筆の描く「太夫」の浮世絵が出迎えてくれる。許されるなら、その前に何時間でも突っ立っていられた。それほどに、美しく繊細な作品だ。ほか、昭和に再刷りされた浮世絵も販売されている。クオリティは原画のように素晴らしかった。レストラン・バーでのお食事同様、こちらもたいへんリーズナブルである。 いったん『津田楼』に足を踏み入れたら、そこは夢の国。時間の感覚など、またたく間に消えてしまうだろう。レストラン・バーについて、「くつろげる贅沢空間」と言ったが、これは『津田楼』すべてにおいていえることでもある。本当の贅沢とは、これみよがしに高価な代物を身に纏うことではなく、目に入るもの、耳に飛び込む音、舌で味わう味、体で感じる空気、心で感じる豊かさをフルに楽しむことではないだろうか。じわじわと広がりつつある人気が“沸騰”する前に、“手の届く極上の娯楽”を一度、楽しんでみてはいかがだろうか?目印は、『津田楼』のちょうちんと、花見小路にたなびく「なまず」と「うなぎ」をモチーフにした緑色の暖簾だ。 津田楼 〒605-0074 京都市東山区祇園町南側570番121 T e l : 075-708-2518 F a x : 075-708-2516 ウェブサイト:http://tsudaro.com/ Email: info@tsudaro.com <営業時間> ◆レストラン・バー◆ <ランチ> 11:30 ~ 14:30 (L.O.14:00) <ディナー&バー> 18:00 ~ 24:00(Food.L.O.22:00) 定 休 日 :水曜日 ◆古美術ショップ◆ 13:00 ~18:00 定 休 日 :火、水曜日 Photos:Copyright(c)2013 Maiko Club All Rights Reserved Special Thanks to:  WALKKYOTO (画像提供)/ 津田楼(取材協力・画像提供)

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