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安部 龍太郎・作『夜明けの道』~ガラシャ物語より
本能寺の変の八日後、長岡与一郎忠興(ただおき)は父藤孝(ふじたか)の部屋に呼ばれた。 「これを見よ」  藤孝が険しい顔で差し出したのは、明智光秀からの書状だった。  摂津一国を与えるつもりでいるので、すぐに身方に参じてほしい。我らが今度の企てを起こしたのは、与一郎らを取り立てようと思ってのことだ……
UpdateDate : 2017-02-18 21:31:55
Author : ✎ novel


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安部 龍太郎・作『夜明けの道』~ガラシャ物語
夜明けの道
ガラシャ物語『夜明けの道』 著:安部 龍太郎 カバーイラスト:しらたん 『ガラシャ物語全集』は、京都フラワーツーリズムが提供する「まちおこし小説」の一環として出版されています。 kyoto.flowertourism.net/
 本能寺の変の八日後、長岡与一郎忠興(ただおき)は父藤孝(ふじたか)の部屋に呼ばれた。 「これを見よ」  藤孝が険しい顔で差し出したのは、明智光秀からの書状だった。  摂津一国を与えるつもりでいるので、すぐに身方に参じてほしい。我らが今度の企てを起こしたのは、与一郎らを取り立てようと思ってのことだ。そう記されていた。 「わしは参ぜぬ。そちは日向守(ひゅうがのかみ)どのの娘婿ゆえ、行きたければ行くが良い」 「私も参りません。決意のほどは先日お示しいたしました」  信長が討たれたという知らせを受けると、藤孝は髻(もとどり)を切り落として哀悼の意を示した。与一郎もこれにならい、父と行動を共にすることを誓ったのだった。 「さようか。ならばわしは隠居して家督をそちにゆずる。そのかわり」  藤孝はいったん言葉を切り、お玉を誅殺せよと命じた。  光秀の娘を妻にしたままでは、謀反に加担しているように見られる。辛かろうが思い切らねば、将来に禍根を残すというのである。 「承(うけたまわ)りました。されど、数日お待ちくだされ」  まだ変の全容も諸大名がどう動くかも分かっていない。それを見極めてから事を決めたい。与一郎はそう返答して引き下がった。  お玉を娶(めと)って四年になる。一男一女にも恵まれ、仲むつまじい日々を送ってきた。それなのに光秀が謀反したからといってお玉を討つのは、あまりにも忍びない。  それが与一郎の本心である。だから決断を先に伸ばして打開をはかろうとしたが、六月十三日になって状況は大きく動いた。山崎の戦いで光秀は秀吉勢に大敗し、落ちのびる途中に土民に討ち取られたのである。  与一郎は観念した。これ以上、父のもとにいては、お玉を庇い抜くことはできない。家も国も捨て、一介の牢人となって妻子とともに生きよう。  ある夜、その決意を固めて奥御殿に行くと、お玉が白小袖のまま巻紙に筆を走らせていた。弱い明かりに照らされてぼんやりと浮かび上がる姿から、鬼気迫る覚悟が伝わってきた。 (もしや……)  自決するつもりではないかと思ったが、与一郎は戸の陰から動こうとしなかった。 そうしてくれるなら、何もかも丸く納まる。家を捨てて父母を悲しませることも、二人の子を路頭に迷わせることもない。そんな考えが、脳裏をかすめたのだった。  書き置きを終えると、お玉は正座をしたまま着物の帯で太股を縛った。自決した時、裾を乱さないためのたしなみである。  側には四歳になるお長(ちょう)と三歳になる熊王丸がやすらかな寝息をたてていた。  与一郎は悪夢にうなされる思いで漠然と様子をながめていたが、お玉が鞘を払い、脇差がきらりと光るのを見ると、部屋に駆け入ってお玉の腕を取り押さえた。  お玉は無言のまま首を振り、死なせてくれと身をもがいた。 「死んではならぬ。この子らを見捨てるつもりか」  与一郎は背後から抱きしめたままささやいた。 「でも、このままではあなたさまのお立場が」 「家を捨てて牢人になる。親子四人の食い扶持くらい、どこに行っても稼いでみせる」 「それではあまりに」  申し訳ないと言いながら、お玉はさめざめと泣きだした。  夜が更けるまで話し合い、明日の朝、城を抜け出すことにした。薄闇の中で支度をしていると、音もなくふすまが開いた。灯明皿(とうみょうざら)をささげた侍女を従えて、母親の麝香(じゃこう)が立っていた。 「城を出るなら、これを持って行きなさい」  銀の小粒の入った革袋を、与一郎の手に押し付けた。 麝香は藤孝がお玉を討てと命じたと聞き、こうなるだろうと察していたのである。 「ただし家を捨ててはなりません。お玉どのの無事をはかったなら、必ず帰ってくると約束して下さい」 「しかし、母上」 「お前はまだ二十歳(はたち)です。逃げずに立ち向かえば、かならず道は開けます」  それまでこの子たちは預かっておくと、麝香はお長の枕元に座り込んだ。  夜明け前、与一郎はお玉をつれて宮津城(みやづじょう)を抜け出し、信長から与えられた奥州馬に乗って西に向かった。  竹野川ぞいの味土野(みどの)に、信頼できる友がいる。そこにしばらく身を寄せて、再起の道を探ろう。お玉を片手に抱いて馬を走らせながら、与一郎は初めて自分の足で立てた気がしていた。 〈了〉

物語の舞台
宮津城奥御殿
35.53670401759948
135.19789427431533
0
0
0
15
35.53670401759948,135.19789427431533,0,0,0
物語の舞台:宮津城
CGで復元 幻の宮津城(2014/12/8)
宮津城大手門(明治の初めにドイツ人が残してくれた唯一の写真から復元)
「安部 龍太郎」さんの作品
安部龍太郎 - Wikipedia
福岡県八女市(旧・黒木町)生まれ。国立久留米工業高等専門学校機械工学科卒。本名 良法。 東京都大田区役所に就職、後に図書館司書を務める。 その間に数々の新人賞に応募し、「師直の恋」でデビュー。 『週刊新潮』に連載した「日本史 血の年表」(1990年に『血の日本史』として刊行)で注目を集め、「隆慶一郎が最後に会いたがった男」という伝説ができた。 著作に、『彷徨える帝』『関ヶ原連判状』『信長燃ゆ』など。 2004年、『天馬、翔ける』で第11回中山義秀文学賞を受賞。 2013年、『等伯』で第148回直木賞受賞。
七尾市 on Twitter
“【(祝)安部龍太郎氏『等伯』直木賞受賞!】 安部龍太郎氏の『等伯』が第148回直木三十五賞を受賞されました。 小説『等伯』は、安土桃山時代から江戸初期にかけて活躍した長谷川等伯が・・・続きは⇒https://t.co/r5OjrilE”
画聖長谷川等伯が生まれ育った七尾、能登畠山氏の居城「七尾城跡」、古くから守り受け継がれている祭礼や風習、歴史が多く残されている能登半島。

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