本名・長谷川明咲あさき。2015年２月２６日、修業期間の「仕込み」を終え、舞妓デビューしたばかりだ。 ４人きょうだいの次女として、東京都大田区で育った。区立中学に通いながら、ダンススクールでヒップホップとジャズダンスに打ち込んでいた２年前の春、修学旅行先の京都を知ろうとながめていたスマートフォンの画面に、目が止まった。 「こんなきれいな人、みたことない」。 「舞妓さんになりたいんだけど」 「何言ってんの。途中で簡単に辞めたりできないんだよ」。 明咲は母の朋美（４４）と２人きりになると自分の気持ちを伝えたが、相手にされなかった。 仕込みを始める直前の昨年４月２０日、地元のホールで発表会のステージに上がった。３０人の仲間たちのセンターで踊りきると、涙があふれた。 「もう、思い残すことはない」。 ２日後、明咲はＪＲ品川駅の新幹線ホームで、ダンス仲間とクラスメートに見送られ、京都に旅立った。

「帰りたい」。 昨年９月、明咲は、母の朋美（４４）に電話で打ち明けた。 ４か月ぶりの帰省を終えて、駒屋に戻ったすぐ後だ。 「あんたが頑張るって言ったんでしょ」。 弱音を吐く明咲を、朋美は突き放した。娘が近くにいないのは、自分もつらい。 でも、母親役は女将さんに任そう。仕込みに送り出した時、そう心に決めていた。 明咲を花街の世界にいざなった中学の副校長、千根昭彦（５７）は、里心のついた明咲の様子を朋美から聞き、手紙を送った。 〈逃げ出してしまいたいことがあったら、『明日の、来週の、来月の今頃は終わっている』と言い聞かせて。意外と効果的〉〈我慢できないことがあれば、女将さんや先輩に話して吐き出して〉。 とし恵美は、舞妓になった今も、時折出して、読み返す。

「クセを直すのは大変どした。けど、踊りや唄にいろんな意味があることがわかってくると、稽古のお時間は楽しおす」。 ヒップホップの動きが身についたとし恵美は、無意識に体が上下して、日舞独特のすり足ができなかった。 腰の高さを一定に保ったまま、膝を高く上げる動作ができるまで、何度も注意された。 踊りの必修科目が「祇園小唄」と「京の四季」。 舞妓になる前に、歩き方やおじぎの仕方なども含め、約３０分の試験を受ける。 とし恵美も今年１月、居並ぶお茶屋組合の役員らを前に踊った。稽古で覚えたことを思いだそうとしたが、緊張で頭の中が真っ白になった。 「踊り、ようなったなあ」。 試験を終え、立ち会った駒屋の女将・駒井文恵（７０）から言葉をかけられると、全身の力が抜けた。 「『今の私には、これ以上無理』というまで稽古を重ねることが、自信につながる。そうすると、舞台でもお座敷でも、余裕が出て全体が見えるようになるんどす」。 宮川町芸妓組合長のふく葉は、稽古を重ねる大切さを、そう説明する。

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『舞妓さん撮影会～写真をオープンデータ化』の撮影会に参加された方々から、オープンデータとして提供していただいた貴重な写真集の全集です。ライセンスは、CC BY-SA（Attribution-ShareAlike ）です。写真の転載・使用は歓迎です。