ＭＫでは、職員１年目の方に、ＭＫ新聞掲載「私のひとりごと」の原稿を執筆してもらっています。 1　原稿のテーマ：フリーテーマ（趣味、特技、日々のエピソード、仕事の話、提言など） 2　原稿の長さ：６００字以上８００字まで

タクシーでの出来事というと、今でもまず思い出すのは初めての一人旅で乗ったギリシャ・アテネのタクシーです。 ドライバーさんとのやりとりが印象深かったとか、車内で何か出来事があったわけではなく、ただ「タクシーに乗る」というそれだけのことが、記憶に残っています。 ギリシャへの思いを少しだけ語っておきますと、小さい頃、家の本棚を勝手に探していて、手に取った本がギリシャ神話の本でした。 その前からアニメやマンガから惑星の名前は神話に由来するといった断片的な知識はあったと思いますが、体系的にギリシャ神話というものを知ったのはその本からだったと思います。 魅力あふれる神話のギリシャにあこがれたものの実際に訪れることはできませんので、次なる策として現代のアテネへ行ってみることにしました。

アテネでは基本的に地下鉄と徒歩で移動しました。 バスは目的の停留所がわかりにくく、１度だけ乗りましたがその際には拙い英語で「○○に着いたら教えてくれ」と伝えてずっと横に立っていました。 一人での旅でしたから、タクシーはさらに不安でした。 悪質な車も多いと聞いていたのでなるべくなら使いたくなかったのですが、デルフィのアポロン神殿に行くためにこれまた１度だけ「何事も経験よ」と乗ってみました。 ホテルのフロントで信頼できるタクシーを呼んでもらい、朝のアテネを走りました。 美しい朝焼けの中、遠回りもなく時間通りに到着。安堵から笑顔でいっぱいチップを払ってしまいました。

タクシーに限らず、この旅行では何事もなく無事に帰国することができました。 しかし、異国の地で自分は実に無力でした。 言葉に不自由し、当たり前のことがわからず、日本で自分はいかに心安く過ごしていたのかと驚くばかりでした。 反面、全てが新鮮で、新しく何かを知って調べて学ぶというのはとても楽しいことでもありました。子どもの頃は毎日がこんな感じだったのかもしれません。 そんななかでも特に「タクシーに乗る」ということは、ちょっと危険で、ちゃんと対処すれば便利、という「知識」が実際に「体験」に塗り変えられていくような出来事だったのだと思います。 「はじめてのおつかい」、ならぬ「はじめてのタクシー」。だからきっと、色あせずに記憶に残っているのだと思います。